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おおいた市民総合法律事務所の歩み
   3.じん肺遺族補償取消訴訟の取り組み
 
1988年に弁護士になってすぐ、じん肺患者の肺がん死について労災認定を求める行政処分取消訴訟の主任になりました。
長年セメント工場で粉じんを吸う作業に従事して、じん肺の中でも2番目に重い管理区分3の認定を受けていた患者が肺がんで死亡した事案で、じん肺と肺がんによる死亡との間には因果関係があるから、 死亡についても労災の補償を認めるべきだと主張して、患者の妻が佐伯労働基準監督署長に対して、労災給付の不支給処分の取消を求めて大分地裁に提訴したものです。
同種の事件で松山地裁では勝訴判決が確定しましたが、大分地裁の事案では、患者がタバコを吸っていたことが明らかになっていましたので、国側は因果関係を激しく争って来ました。
この問題では、大分協和病院の山本真医師が精力を傾けて国側の提出して来る御用学者の意見書や論文の批判・反論をしていただきました。私も、はじめのうちは高度な医学、疫学の議論は全く理解できませんでしたが、 何度も何度も山本医師のレクチャーを受けるなかで、次第にその面白さが分かるようになりました。国側は物量作戦で、御用学者の意見書や論文を多数提出しながら、証人を出すことはできず、 別件の広島地裁で愛知がんセンターの医師を証人に立てて、その調書を福岡高裁に提出するという姑息な手段も取りました。この時は、山本医師と一緒に広島地裁に乗り込み、復代理人として反対尋問で撃破したのですが、 基礎的な疫学の質問に対して国側の医師が十分な答えもできない現状に唖然としました。
しかし、福岡高裁は、私たちの医学的・論理的な優越性を理解できず、「現段階では因果関係を認める意見も否定する意見もあるのだから、いまだ因果関係は確証されていない」といった杜撰な理屈で行政追随の判決を出したのです。 そして、その判決は最高裁で確定してしまいました。
知的探求心も誠実性もない裁判所のせいで、全国2万5000人のじん肺患者の救済は、10年以上も遅れる結果となってしまったのです。 現在国ではじん肺患者の肺がん死に関する認定基準を見直す動きが出ていますが、世界的に見れば遅きに失していると言えるでしょう。
 
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